逆さまの砂時計

すべて、作り物です。この砂時計がなんの役にも立たないことを望みます。

空色の小瓶5

餃子定食が、青年の前に置かれた。チャーハンは大盛りで、ラーメンのチャーシューも多い。店主は定位置にすわり新聞を読み始めた。「いただきます」「はいよ」一口餃子を頬張った。「あふい!」「あついよ」男は青年の食べる姿を見ていた。それに気づいた青…

空色の小瓶4

厨房の鉄板がぱちぱちと音をたてて、餃子を焼いている。青年はカウンターの招き猫の額を軽くなでた。招き猫は、至高の笑顔をしている。青年が何か言ったような気がして、そちらを見やったが、何事もなかったように、撫で続けていた。男はラーメンの汁を飲み…

空色の小瓶3

煮卵がうまい。男は考えた。きっと、店主が若かった頃は、空が空の色だった頃は、人々の感情は、より激しいものだったのだろうと。喜びに際しては声をあげて笑い、怒りに際しては目を血走らせ、悲しみに際しては、涙を流したのだろう。今は、そんなに感情を…

空色の小瓶2

男は丸いすに座りなおし、窓の外を見た。空は相変わらず濁っていた。朝焼けの鮮やかな白色も、昼間の高く澄んだ青色も、夕方の名残惜しい赤色も、星を魅せる夜の漆黒さえも、この時代の空にはなかった。ただ、胃もたれにも似た白っぽい灰色だけが町に覆い被…

空色の小瓶1

過去の繁栄に蔦が巻く。 見上げる空の多くは、灰色の外壁である。古びた建物は、空にありながら飛んでおらず、生えている。現にある空も白く濁り、色彩の変化を失っている。そんな町の端っこを男は行きつけのラーメン屋へと向かう。暖簾をくぐり、油でべとつ…

逆さまの砂時計

砂が落ちている時は、時間を刻んでいる。砂が落ちていない時は、時間を刻んでいない。逆さまの砂時計は、果たして何の役に立つのだろうか。