逆さまの砂時計

すべて、作り物です。この砂時計がなんの役にも立たないことを望みます。

空色の小瓶2

男は丸いすに座りなおし、窓の外を見た。

空は相変わらず濁っていた。朝焼けの鮮やかな白色も、昼間の高く澄んだ青色も、夕方の名残惜しい赤色も、星を魅せる夜の漆黒さえも、この時代の空にはなかった。

ただ、胃もたれにも似た白っぽい灰色だけが町に覆い被さっている。

とんとんとん、とテーブルを指で叩く男は、空の色を夢想していた。

「なあ、空は綺麗だったかい」

「忘れたね」

「贅沢だな、おい」

「みんな意識して見ちゃいなかったよ」

店主は立ち上がって、茹であがった麺の湯をきり、椀の中のスープにいれた。菜箸で麺を軽くほぐす。

「ありふれたものは、なにかと大切にされないものさ」

具材が盛り付けられていく。煮卵、チャーシュー、ネギ、ナルト、めんま

「空は、たぶん、綺麗だったよ」

筋ばった黒い手が、男の前にラーメンを置いた。男はそれを引き寄せて置き、箸を割った。



「なぜかって? そりゃ、嬉しいときや悲しいときに、見上げたくなるからね」



店主も笑うのかと、麺をすすりながら思った。


【空色の小瓶2】