空色の小瓶4
厨房の鉄板がぱちぱちと音をたてて、餃子を焼いている。
青年はカウンターの招き猫の額を軽くなでた。
招き猫は、至高の笑顔をしている。
青年が何か言ったような気がして、そちらを見やったが、何事もなかったように、撫で続けていた。
男はラーメンの汁を飲み干し、箸をバキっと割って器の中に入れた。
青年は眠たそうにテーブルにつっぷした。猫を撫でていた右手はずるずるとその表面を下り、猫が座る赤い座布団を撫でていた。
「兄ちゃん、眠いのかい」
「毎日寝ているのに眠いです」
「まあ、そんなもんさ。俺だって朝も、昨日の晩も、その前の日だって、飯を食ってるが、腹が減る」
ふっと笑う息で、青年の背中が動いた。
男は水をのみ、グラスを置いた。
「僕には夢があるんです」
「そうか、若ぇってのはいいな」
「でも、それを叶えられるかどうかわからない」
「まあ、夢なんてそんなものよ」
「それに、多くの人が悲しむかもしれない」
「人を悲しませることが目的なのかい?」
「違います。でも、悲しむ可能もある」
「なるほどな。まあ、何にしても悲しむ人はでてくるから、そんな気にすることはねぇよ。甲子園なんか、そこらのボロの病院なんかより多くの人が泣いている。社会の理解が伴うか伴わないかの違いさ」
チャーハンを炒める音が聞こえる。招き猫は、どこか撫でてほしそうだった。
【空色の小瓶4】